8月に行われた夏の風物詩でもある『夏の甲子園』。
107年ぶりの優勝を果たした、神奈川県代表・慶應義塾高校。
例年だと、優勝した時の活躍した選手にスポットが向きますが、今年は一風変わった、これまでの高校野球の常識とはかけ離れた部分について世間から注目を浴びています。
そこで今回、優勝から少し日が経ち、改めて慶應義塾高校の学校説明から、実際はどんな取り組みをしているのか、現代の高校野球について詳しく解説していきます。
慶應義塾高校について
そもそも慶應高校ってどこにあるの?慶應に通うにはいくらかかるのか、簡単にご紹介します。
慶應高校の歴史
学校紹介は以下の通り
- 神奈川県横浜市港北区に所在
- 最寄駅は東横線・日吉駅
- 現代では珍しい男子校
歴史を遡ること1858年。かの有名な福沢諭吉が創設。現在は生徒数2180人を超える。
生徒数は以下の通り(2023年現在)
- 1年生735人
- 2年生757人
- 3年生688人
各学年18クラスのマンモス校です。
私が通っていた公立の工業校は1学年240人3学年で720人しかいませんでしたので、田舎の公立校とはスケールが違いますね。。。
慶應高校の学費
慶應高校のHPに掲載されていた1年にかかる費用は以下の通りです。
- 入学金 34万
- 授業料 75万
- 教育充実費 20万
- 保護者会費 13万
- 生徒会費 8千円
- 合計 約131万円
2、3年は入学金を除くと97万円となり、3年間で約300万円かかる計算になります。
公立高校は3年間でおよそ100万円と言われています。
学費だけではなく、慶應高校は部活動が盛んで文化系の部活動が30、体育会系が46の部活動が活動を行っています。
小林至著:「野球の経済学」によると名門校で野球をすると学費とは別で3年間での費用は諸々300万円かかると言われています。
入学難易度
慶應高校は2003年から学校の取り組みでスタートさせたのが「推薦入試制度」です。背景としてはスポーツや文芸の活動を通して「塾高」全体を活性化させたいという目的です。
最低でも9教科の評定合計が5段階評価で38以上は必要で「オール4」で入試を受けることもできないのです。
慶應高校の推薦試験は書類選考と面接のみ。推薦枠の定員にも限りがあるため難易度はとても高い。
この推薦入試制度の導入により全国から文武両道の精鋭たちが野球部に集まるようになりました。
成果が出るのは早かった。長く閉ざされていた甲子園出場の扉が開いたその2年後、2005年春の選抜だったのです。
慶應高校野球部監督について
優勝で慶應の名が全国に知れ渡ったのと同時に監督の異例の経歴にも注目を浴びましたね。
そんな慶應高校野球部監督について紹介し、指導方針と選手との関係性について話していきます。
名前 | 森林貴彦(50歳) |
出身 | 東京都渋谷区 |
経歴 | 慶應高校ー慶應大学法学部卒業 |
監督になるまでの経緯は以下の通り
- 大学卒業後、某有名企業に勤めるも高校野球への夢を捨てきれず指導者の道へ
- 筑波大学院で体育理論を修める
- 慶應幼稚舎教諭になる
- 日吉倶楽部指導委員長と学生OBコーチとして長い間技術指導に携わる
- 2012年・慶應高校助監督に就任
- 2015年・監督に就任
これが慶應野球部監督の森林さんの簡単な経歴です。
大学野球で学生コーチを経験したことが今の監督生活に大きな影響をもたらしていると語っています。
考え方が180°考え方が変わり、自分ではなく、チームや相手基準で考えるようになったのです。
そこで得た自分で考える楽しさ、難しさを体感したのです。
以下に慶應高校HPで森林監督の紹介動画、監督に至るまでの経緯など話しているのでこちらもぜひご覧ください。
指導方法
指導方法で森林監督が最もインスパイアを受けたのは全監督の上田監督で間違いないでしょう。
前監督の上田さんはアメリカでコーチ留学をした時に「指導者からやらされる野球」ではなく「選手が自ら考えてやる野球」を感じとり、いち早く慶應野球部に反映させたのです。
当たり前のようにしている全体練習よりも個人練習を重視しているようです。
冬場のトレーニングはユニホームではなく、トレーニングウェアで行っています。そのメリットは以下の3つです。
- 着替えの時間の短縮
- 防寒
- トレーニングの動きやすさ
「選手が自ら考えてやる野球」には自由度は高く、自分の意思で主体的に野球に取り組むことができます。
それは楽しさにつながり、甲子園で野球を楽しんでいるように映ったのは体現できていたことに他ならない。
選手との関係性
森林監督が目指す野球部は年齢は違うが対等な野球をする人間でお互いに意見を交わす、求める。
アドバイスをすることもあればそれは違うと思うとフラットなやり取りができるのが理想だと語っています。
みんなで新しいものを作り上げていく、監督が選手たちを甲子園に連れていくと言うよりもむしろ、選手たちに連れて行ってもらうくらいの気持ちも感じる。
監督が偉いわけではないと、言葉、表情一つで表現しているでしょう。
私がこの内容を聞いて1番に思ったのは、野球界には珍しいスタイルだなと思います。
全国見渡しても少数派の指導だなと思います。どの学校も「監督の言うことが絶対」と言うのがあるでしょう。
自分で考えても、監督に否定されたり、積み上げてきた、バッティングフォーム、ピッチングフォームを監督の一声でどうにでもなります。
森林監督の話の内容には「監督の言うことが絶対じゃないよ。監督の言うことを素直に聞いていれば甲子園に行けるなんて思わないでね。」と言っているようにも受け取れます。
日本一の高校がそのスタイルをどの学校にもこのスタイルを組み込んでいいかというとそうではないです。
慶應高校のスタイルは”選手の主体性”を大事にしています。
選手と監督の関係性を築く上で最も合理的だからです。
この方法は選手にももちろん、責任がついてきます。高校野球よりも自主性を重んじる大学野球のスタイルに近いです。
今年の全日本選手権で優勝した青山学院大学も似たようなスタイルで練習に取り組んでいます。
現代、ハングリー精神が欠けている時代に必要なのは、主体性と感謝の気持ちを育むことです。
今大会の成績
慶應高校の全国制覇までの道のりを軽く紹介します。
激戦区神奈川で勝ち、その勢いのまま甲子園に乗り込みスタンド全体が慶應ムードに一色されたこの夏。個人の力で掴んだ勝利ではなく、全員で掴んだ勝利でしょう。
神奈川大会
神奈川大会の戦績は以下の通り
出典:カナコロ
- 2回戦 12-2白山
- 3回戦 7-0津久井浜
- 4回戦 10-0相模原
- 5回戦 8-1市ヶ尾
- 準々決勝 7-2横浜創学館
- 準決勝 12-1桐光学園
- 決勝 6-5横浜
夏の出場は5年ぶり6回目の出場。
決勝戦では3連覇のかかっている王者横浜高校を相手に9回逆転ホームランで劇的な逆転勝利で悲願の甲子園出場を手にしました。
春夏連続の甲子園出場でした。
全国大会
出典:三田評論ONLINE
全国大会での戦績は以下の通り
- 2回戦 9-4北陸(福井)
- 3回戦 6-3広陵(広島)
- 準々決勝 7-2沖縄尚学(沖縄)
- 準決勝 2-0土浦日大(茨城)
- 決勝 8-2仙台育英(宮城)
夏の優勝は107年ぶり。
107年前の優勝は東京代表として出場して、まだ甲子園が設立していなかった時のことだ。甲子園優勝ブランク107年ぶりとなり更新をしました。
優勝した要因
表面的な部分はやはり、2枚看板の2年生投手が相手打線を抑え固い守りで最少失点で抑えて、切込隊長の丸太選手を始め、打線がつながり勝つことができたのだと思います。
球場全体の応援をKEIOムードにしたことも選手の力になったでしょう。
一方、プロセスの面で言うと私は選手の主体性に要因はあると思います。部訓の中には
『自分の評価は自分でしろ、人の目、人の評価に気にしてばかりいるとパイプが詰まる』
とあります。
プレーするのはあくまで自分だから、自分で考えてやる。
もしその考えで失敗しても責任は負わないというスタイルがあるから選手たちは主体的にプレーし意欲的に練習に励むことができるのでしょう。
慶應高校のココが凄い!
さて、今回の本題でもある、現代高校野球の裏側についてようやく話していこうと思います。
野球に携わっている方や何かに取り組んでいる方はぜひ何か参考になり今よりもプラスになることが多いと思うので表面的な部分を取り入れるのではなく、その裏側や経緯、思いを汲み取った上で取り入れていきましょう。
その1.容姿
甲子園で「髪切って出直してこい!」と心許ない野次が飛ぶほどの出来事でした。
しかし、何か新しいことを始める時は大抵、反対されるのが世の常。
優勝したことにより、自分たちのやっていることが正しいと説得力がついたのではないでしょうか。
近年、野球少年=坊主の概念がかなり薄らいでいます。
今大会も49校中私が見たところ7校は明らかにチーム全員が坊主ではありませんでした。
慶應高校の野球部員は短髪というよりも長髪の言葉の方がしっくりくるヘアスタイルでしょう。
森林監督曰く、「髪型は自由。髪は選手のものなので自由にして構いません」と髪型に制限はないようだ。
この言葉だけ聞くと髪を染めたりしないのか?など懸念されることもありますが、そこは選手たち同士で「その髪型はマズイんじゃない?」と言い合っているようだ。
今後も高校球児の長髪化は進みいずれは出場校全校が坊主がいなくなる日がくるかもしれない。
しかし、気をつけてほしいのが「100対0」の考え方だ。坊主は古い!坊主はだめ!長髪がいい!と考えが偏っていることに危険も感じています。
自由なら、坊主でもいい、長髪でもいい。
そんな考え方がないようにメディアの声を聞いているとそう感じる。
『坊主はダサい、今時坊主?昭和くさいな』という考え方になりつつある。
その2.エンジョイベースボール
この言葉だけ聞くと、どこか流行しそうな予感もしてます。(笑)
慶應野球部のモットーとしている言葉でもあります。
これまでの高校野球はグランドで歯を見せず、感情を押し殺してプレーすることが多いように見受けられました。
私が小学生だった時もそんな選手をテレビで見て、そういう選手たちがいいんだと覚えた記憶もあります。
しかし、慶應高校は選手たちがエラーしても、悲壮感を感じさせることなく、終始のびのびしたプレーが印象的でした。
ただ、本質を間違えて欲しくはないです。
遊びでやるようにはしゃいでワイワイする楽しさではないと私は感じています。
それだけの練習やトレーニングを積んでグランドではプレーしているのです。
普段の練習では選手同士で厳しい声も飛び交うことがあるようです。
そのキツいトレーニング、厳しい練習さえも楽しんでしまおうというニュアンスの方がしっくりきます。
試合を楽しむためには勝たなければならないです。
個人であれば尚更です。この2つを達成してこそエンジョイはできません。
地道な練習や努力、そのプロセスもエンジョイする。
結果を出し続けること、地方大会から12連勝したからこそ試合をするたびに選手はエンジョイができるのでしょう。
エンジョイベースボールのこの言葉だけを鵜呑みにして、プレー中はニコニコしてエラーしても悲壮感は出さずプレーするのでは、おそらく慶應高校のようなチームを作り成績を残ることはできないでしょう。
練習試合では、甲子園で見た表情や雰囲気でプレーはしていないかもしれません。
やることをやってきた、そのプロセスすらも楽しんで努力を努力と思わずに練習しているのでしょう。
アメリカでは「頑張ろう!」と選手を励ますのではなく、「エンジョイ!」と励ますそうです。
確かに頑張れと励ますよりもエンジョイの方が本来の力を発揮することができるようにも思いますね。
科学的にアプローチの進んだ練習
パフォーマンス向上のための科学的アプローチは慶応だけではなく、全国の高校野球で広まりつつあります。
優勝インタビューの言葉の中には「大学の分析チーム」と言う言葉が出ており、高校だけではなく大学も巻き込んで試合に臨んでいることがわかります。
野球は攻撃・守備・走塁とプレーが渡り、またグラブ、バットと用いる道具も多いため、野球部の練習は道新ても長くなる学校が多いです。
土日の練習は1日練習。練習試合でもホームグランドなら、試合後ミーティングをして課題克服のための練習をするなど長時間の練習が当たり前だと野球に携わる方々は思うことでしょう。
練習することが多いからを理由にして無駄が多くなっていることも確かです。
近年、科学的に最適な練習法が提案され、スマホ一つで誰もが情報に触れることができる時代で平等になった現代。
プロ野球選手がどのような考え方をしているかもYouTubeでわかる時代です。
トレーニング面でも技術でも進歩が目覚ましく、無駄を省いて効率よくパフォーマンスを上げるかが重要になってきてます。
慶應高校には昔から伝統で以下のような教えがあります。
将来の指導者という立ち位置で理論武装する。正しいことを教えるためにルール、技術論、フォーメーション、勝負哲学、体の構造、医学知識、栄養学、運動力学を知ること身・技・体・学・伝
自身が学んで、後世に伝えるという役割を担っていることがわかります。
このような意識の徹底が、チーム全体の力を上げることになります。
個人が主体性を持って取り組方がスポーツも勉強もスキルも定着が早いです。
勉強は主体的に取り組むことで膨大な情報を頭に叩き込んで高得点を取っていた学生もいざ仕事をするとどこか主体性が欠けて上司の言うことをメモするだけになりなかなか仕事が覚えられないことなんてありますよね。
学生の時はメモなんて取らずにも覚えてたことを社会人になるとメモを取っても内容を思い出せないのは、主体性が欠けているかもしれませんね。
伝統かそれとも新しい常識か
今大会の優勝を受けて、どれだけ夏の甲子園で優勝することが影響力を持つのかがとてもわかりました。
春の選抜大会で優勝、山梨県勢初優勝した山梨学院のことにもう誰も触れることがありません。
森林監督が監督になった理由の一つに坊主など現代の高校野球に対して課題を解決するためという想いもあるのだ。
また、高校野球は青春押し付け問題も上がっている。
全力疾走、涙、汗といったものをメディア関係、大人が求めて高校生が自分の意思で身動きが取れないことも意義を唱えています。
高校野球の100年の伝統という名のもとに「おかしい」と違和感を覚えたことがあるでしょう。
また、森林監督はずっと高校野球の監督ではなく、某有名企業で働いた経験のあるサラリーマンでもある。
一度社会に出てたくさんの経験もあるのだろう。
6月に埼玉で行われた斎藤佑樹さんと元浦和学院野球部監督の森士さんのトークショーのなかで「野球界で常識とされていることは他のスポーツでは非常識」
といっており分断されている野球界に垣根を超えた指導者が学べる場所を作るべきだと語っていた。以下にトークショーの内容を全て公開しているのでぜひ併せてご覧下さい。
そういったものを打破し、革新的な方針を高校野球に根付かせるためにも優勝という最も影響力のあることは外せなかっただろう。
春の優勝と夏の優勝では全く盛り上がり方、メディアの取り上げ方が天と地の差である。
まとめ
今大会も高校生の熱い活躍とグランドを躍動する姿を見て心揺さぶられるものがあったと思います。
今回優勝された慶應義塾高校は素晴らしいチームだったと思います。今後の活躍も楽しみです。
慶應を始め仙台育英の須江監督など現代の高校野球界の先頭を走る革新家に注目が集まっている。
ただ、何も革新的なことではなく、野球界の常識がどれだけ世の中、他のスポーツの非常識が多いことに気づいてほしい。
ますます、野球界がより良くなり多くの子どもたちが野球を快く楽しめるスポーツになっていくことが大事だ。
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